【書評】夜は短し歩けよ乙女 著:森見登美彦
小説を読む人であれば、「食わず嫌い」ってあると思います。
私にとっては、森見登美彦作がまさにそれでした。
ベストセラー作品のなかでも「夜は短し歩けよ乙女」は、なんというかなぜか手が出ない作品だったのでした。
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 文庫
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最近森見登美彦原作のアニメ映画「ペンギンハイウェイ」のCMが見られるようになってきて、そのSFっぽい雰囲気に私としては食指が動く感じでした。最近小説を読む時間も作れるようになってきて、私としては「ペンギンハイウェイ」を読む前に代表作とも言われる「夜は短し歩けよ乙女」を読んでおくしかないんではないか、と思い読んでみました。
読みはじめてすぐに感じたのは、「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」感でした。原作の高橋留美子をして 「一番きらい」と言わしめた押井守監督作品です。
森見登美彦は京都大学農学部出身で、その京都大学周辺を舞台にした甘酸っぱいラブストーリーの本作ですが、夢現のなかで過ぎ去るファンタジー感はまさに「ビューティフルドリーマー」でした。なんというか著者の大学時代の風景、もしくは思考回路を反映したのかと邪推してしまう本文ですが、対してヒロインの思考回路の現実感の無さ!妄想膨らむ青春真っ只中のオタク大学生の理想を具現化したような現実感のないヒロインですが、読み進めると「まぁええか」という気持ちになってきました。もはや突っ込むのも無粋というもの、という気配です。
このヒロインに対して女性読者はどのような印象を抱くのでしょうか。
ストーリーは徹底したご都合主義で、京都を舞台にファンタジーな世界が広がります
。登場人物は面妖な人物ばかりですが、実際「京都ならしゃあないか」と思わせる妙なリアリティを感じるキャラ立ちした人物ばっかりです。別に私は京都には縁もゆかりもなく、完全に勝手な思い込みです。
最後まで読んで、赤面間違いなしのハッピーエンドで終わるのですが、ハッピーエンドの作りよりも、作中のセリフの元ネタや、伏線回収について考えさせてしまうところがかつてひねくれた男子学生だった自分を抉ります。私は作中の「私」のような知的レベルでは生きていませんでしたが・・・
文庫版の「あとがきにかえて」の羽海野チカ先生のイラストがしっくり来ていて、山下和美先生でもしっくり来る気がしました。読み終えてから著者のWikipedia記事を読んでみると、押井守作品に特別な思いがあるようです。私が感じた「ビューティフルドリーマー」感は間違いなかったようです。
ベストセラー作品にまんまとやられた気がして悔しいのですが、「まぁこれは流行るんちゃうかな」とうそぶきつつ、すでに購入済みの「ペンギンハイウェイ」に読み進みたいと思います。