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技術系サラリーマンの生活実験

【書評】獣の奏者 著:上橋菜穂子

個人的な理由で、最近長い新幹線の旅をしました。

旅のお供は、Amazonプライム会員なら格安で買えるKindle Fire HD 8です。電子書籍である Kindle本を読むのには正直重たく、今回長時間使ってみて、7インチ版が欲しくなってきました。まず読んだのが最新のハヤカワSF短編賞を受賞した「天駆せよ法勝寺」です。「佛理学」で宇宙を駆ける九重塔を描いた「佛教スペースオペラ」というハンパない内容で、万人にはオススメできないが、刺さる人には絶対刺さる素晴らしい作品でした。

…話がそれすぎました。

 

今回の本題は、「天駆せよ法勝寺」を読んだあとに読み始めた、和製ファンタジーの傑作と誉れ高い「獣の奏者」です。

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

 
獣の奏者 2王獣編 (講談社文庫)

獣の奏者 2王獣編 (講談社文庫)

 
獣の奏者 3探求編 (講談社文庫)

獣の奏者 3探求編 (講談社文庫)

 
獣の奏者 4完結編 (講談社文庫)

獣の奏者 4完結編 (講談社文庫)

 
獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)

獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)

 

 

外伝まで含めて計5冊。3日かけてまさに貪るように読みました。間違いなく傑作と言えましょう。ジャンルとしてはファンタジー小説に属すると思うのですが、ファンタジー小説でここまでハマったのは、25年近く前、広井王子が書いた「蜃気楼帝国」以来でしょうか。読んだのは中学生の頃なので、もはや手に入らないでしょうけど・・・

 


さて、「獣の奏者」は講談社青い鳥文庫でも出版されていることから、ある程度児童文学の要素を持っているのかと思いきや、しっかりした読解力を求める全年齢向けでした。過酷な人生を背負った主人公エリン(名の由来は作中では山リンゴの意)の少女時代からその生涯を描く大河ドラマです。

 

物語のキーとなるのが「闘蛇」と「王獣」という強い力を持った獣です。人にはなつかず、強大な力を誇る「獣」。犬笛のような超音波を発生する「音無し笛」でしか人はそれを御することはできません。しかし、同じく過酷な運命を背負い、若くして亡くなったエリンの母は、その獣を自在に操る術を持っていました。娘を守るために「大罪」とされるその術を使った母の影響で、エリンはどんどん過酷な運命に飲み込まれて行きます。

 

注目したいのが、ストーリーの面白さもあるのですが、物語の主要な謎である獣の正体に挑む主人公エリンのアプローチが、大変「科学的」であることです。あとがきからも伺えましたが、間違いなく相当綿密な取材に基づく描写で、エンジニア目線でも納得がいくところです。

 

予定では2巻で終了だったそうですが、読者からの強いプッシュで4巻まで書かれ、さらに外伝が出版されたとのことですが、世界観の完成度が高く、全く破綻を感じさせないストーリーでした。よく、優れた作品はキャラクターが自然に動き出し、物語を紡ぐと作家は言いますが、まさにそんな作品なのだと感じます。

 

読んだ人相手にはいくらでも語りあえそうな奮を覚えましたが、ネタバレはしたくないのでぜひ気になった方には読んでいただきたい。本作はKindle版で購入しましたが、書籍でも購入してリビングの本棚に置く事が決まりました。おそらく読むたびに発見があるでしょう。

 

上橋菜穂子先生の長編小説では、「鹿の王」というこちらも名作の誉れ高い作品が控えています。これからすぐにでも読みたい作品がすでに控えているのは幸せです。SF小説ばかり読んでいる私でしたが、結局面白ければジャンルは問わないということがよく分かりました。さらに読む範囲を広げてみたいと思う今日この頃です。