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技術系サラリーマンの生活実験

【自転車実験室】シクロクロス用リアホイールのスポークを「結線」してみた

私のシクロクロス用の主ホイールは、VelocityのA23リムDURA-ACE9000系グレードのハブで自作した初号機にあたるものです。

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少しはマシに組み上げられるようになるまで失敗を繰り返し、シクロクロスのC4で2回の表彰台を経験した、まさに私を育ててくれたホイールです。思い入れのあるホイールですが、少し不満に思う所もあり来シーズンこそ組み替えたいと考えています。不満に思っている所についてはまたの機会に。

 

しかしまだ今シーズンはこのホイールで走りきりたい。しかし何らかアップグレードはしたい。方法はないか考えた結果が古から手組みホイールの技術として伝わる「結線」であります。

 

■結線とは

タンジェント組みのホイールのスポークの交差点を針金等で縛り、スポークのたわみによるパワーロスを削減する事を狙いとした技術です。

「ソルダリング」と呼ばれているようですが、これは針金が解けないようにはんだ付けで固定する事に由来していて、スポークそのものをはんだで固定するわけではありません。私の印象では「バインディング」の方が近いのではと感じています。

 

シマノのロード用ドライブトレインが11速化した時から、ハブのドライブ側のフランジは10速の時よりセンターに寄り、ホイールを組んだ時のスポークの偏りが大きくなりました(オチョコ率の増大)。結果ドライブ側と反ドライブ側のスポークのテンション差が大きくなり、10速時代と比べて大変組みにくくなっています。実際私の組んだリアホイールも、ドライブ側のスポークはカッチカチに張ってありますが、反ドライブ側のスポークはタルく、握ってみるとフニフニたわみます。レースが終わるとよくスポークの交差点に草が挟まっているので、レース中は激しくスポークがたわんでいる事がわかります。

 

スポークがたわむという事は、伝わったパワーの一部が逃げてしまい、あまり「掛からない」事になってしまいます。ここでテンションの低い反ドライブ側のスポークの交差点を縛り、たわみを抑制する事で「掛かり」を良くするのが今回の結線の狙いです。実際の効果はあると期待していますが、どれ程の効果があるのか数字で測れないのが悩ましい所です。

しかし、「究極の回転体」と称される高級ホイール「ライトウェイト」でも「結線」している事を考えると、効果はあるはずです。

 

www.podium.co.jp

 

■針金を巻く

タコ糸やテグスと瞬間接着剤を使う手法もあるようですが、「針金を使ってはんだ付けで結び目を留める」という古来から手法を使う事にしました。

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針金を買ってきました。φ0.3mmの亜鉛メッキ品¥105です。「結束など」と表書きがあるのでちょうどええやん。サビ防止のためステンレス品にして、ステンレス用のはんだを使う事も考えましたが、スポークごとはんだ付けしてしまう可能性もありやめました。

結び方についてはいろいろ方法があるようなのですが、自分で色々やってみて、以下の方法に落ち着きました。

 

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スポークの交差点に写真の通り針金をかけ、軽く引っ張ります。

 

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交差するように反対側に巻きます。この時針金の両側をペンチで掴んで軽く引っ張りながら巻いています。

 

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そこから両側とも4回ずつ巻きました。

 

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4回ずつ巻いた後に、巻いた針金の内側をくぐらせるように交互に通します。ここで通し方が悪いと針金がキンクしてしまいうまく通せず、最悪切れてしまいます。

 

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通せました。

 

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通した両端をねじってまとめます。

この時点でスポークを握ってみてもスポークの交差点は動きません。動く場合は巻き方が緩いです。

 

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さらに針金をねじります。

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ねじった部分を少し残して余分な部分をニッパーで切ります。

 

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飛び出した部分を折りたたんで結線部分に沿わせます。これを反ドライブ側の交差点の数だけ繰り返します。

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できました。スポーク数28本のホイールなので反ドライブ側の交差点7箇所です。

 

作業は振れ取り台で行いましたが、机の上でも問題なさそうです。

 

■はんだ付けする

針金を巻き切ったので、はんだ付けで解け留めをします。

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組み込み系ハードウェアエンジニアの私としては、はんだは「鉛フリーはんだ」を使います。

そもそも「はんだ」は、電子デバイスの製造現場で電子部品を回路基板に溶接して電子回路を構成する溶接材です。鉄の自転車のオーダーフレームで「フィレット溶接品」の仕上げと材質は違えど基本は変わらない物です。

はんだには、大きく分けて旧来から使われている「共晶はんだ」と「鉛フリーはんだ」の2種類に分類されます。「共晶はんだ」はスズと鉛の合金で、溶けやすく柔軟性が高く、大変作業性が良い特性があるのですが、有害物質である鉛を含んでいるため、現在のメジャーな電子デバイスの製造現場では使われていません。ホームセンターに行くと普通に売っているのですが。環境負荷物質低減のため、現在一般的に用いられているのが「鉛フリーはんだ」です。

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材質をみると「スズ、銀  、銅」とあります。

電子デバイスのメーカーによってはこの配合比率にノウハウがあり、秘中の秘の技術の一つです。旧来の「共晶はんだ」と比較すると、硬く溶けにくく、物性としては「割れやすい」傾向があります。

 

はんだは割れます。「ドラえもん」でママが映らなくなったテレビを「やく60度」からのチョップで復元するシーンがありますが、あれは経年劣化で割れたはんだで部品の接触不良が起き、テレビの映りが悪くなったところを、チョップの衝撃で接触が一時的に回復し、映りが戻る、というその筋のエンジニアであれば仕組みが理解できるシーンであります。

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引用:Google画像検索

 

スポークの交点という負荷がかかる所に割れやすい「鉛フリーはんだ」を使うのは物性的にはイマイチですが、私も組み込み系ハードウェアエンジニアの端くれ、DIYでも環境負荷物質の低減に取り組まねばなりません。そもそも家庭ではんだ付けをしなければこんな事で悩まなくて良いのですが...

 

はんだコテは、今回普段から使っている40Wのものを使います。ホームセンターで¥1,000ちょっとで買えます。

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こんな感じでホイールの内側にある針金の結び目をはんだ付けします。

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はんだ付けができました。

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針金の結び目だけにはんだを盛っています。

が、個人的な感想としては仕上がりはぶっちゃけNGです。

スポークにはんだこての熱が逃げてしまい、うまくはんだが盛れませんでした。結線に使う場合はもうちょっと出力の高いはんだこてを使った方が良さそうです。次回はフラックス(後述)を使い、60Wのはんだこてを使ってみたいと思います。本当は温度調節機能付きのはんだこてが欲しいのですが、家庭用としては高級過ぎます...

 

フラックスは、はんだ付けを行う時に仕上がりを良くするための酸性の薬品です。通常「ヤニ入り」と表書きに書かれているはんだにはフラックスが含まれていますが、それでも仕上がりが悪い時に使います。酸性の薬品のため、はんだ付けが終わった後にそのまま放置しているとあまり良くないので、作業後は「フラックスリムーバー」で洗います。今回のようなスポークの結線の場合は、電子回路ではないのでパーツクリーナーで問題ありません。

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結び目にしかはんだを盛っていないため、ホイールの外側にははんだは流れて行かず、針金の巻き方のみです。巻き方については今後も実践と検証が必要ですね。

 

■全体を通しての感想

時間がなかったので、自宅前の坂で何回か立ち漕ぎしてみましたが、踏みごたえがしっかりしたように感じます。ちょっとうれしくなって汗をかくまで繰り返し往復してしまいました。ホイールの剛性が上がった印象というべきでしょうか。個人的には成功です。あとはレースの結果につながるかどうか。

しかし、作業の点でいうと大変めんどくさいものでした。私ははんだ付けは特に悩まずできるのですが、針金の巻き方は大変悩みました。市販の完組ホイールのほぼ全てが結線されていないのは、「工程を考えると利益に見合わない」ということと、「販売店での修理にクオリティの差が出過ぎる」ためと感じました。ライトウェイトのような超高級ホイールの場合、完成状態で結線されているのはそれで良いと思うのですが、スポークが折れたときに修理したい中級グレードのホイールの場合、結線してしまうと販売店で作業技術の差が出てしまい、クオリティコントロールが効かなくなると感じました。

 

しかし私の場合は個人の趣味なので今後も継続していけます。来シーズンにホイールを組み直すときも結線は実施したいと思います。また一つ楽しみが増えました。