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技術系サラリーマンの生活実験

【自転車実験室】フルオーダーのフレームでグラベルロードを組んだ話

2022年7月,フルオーダーのハンドメイドフレームでグラベルロードを組みました。

Photo by もんじゃ 

Sycip Bicycles Gravelroad with Shimano "GRX Limited 2X"

フレーム:Sycip Bicycles Gravelroad round top

ヘッドパーツ:CHRIS KING Inset7 ネイビー

フォーク:Wisky Parts Co. No.9 CXLR Fork

ハンドルバー:Wisky Parts Co. No.7 12F Drop Bar

バーテープSUPACAZ SUPER STICKY KUSH STARFADE プラチナ

ステム:Benefit Stem 90mm ±6° (Wisky Parts Co. No.7 Stem 90mmに変更予定)

シートポスト:Wisky Parts Co. No.7 alloy aluminum seatpost 0mm offset

サドル:fizik TERRA ARGO X3 kiumレール 160mm

BB:CHRIS KING Threadfit24 ネイビー

コンポーネントShimano GRX Limited 2X

ホイールセット:自作手組ホイール

タイヤ:SimWorks Volummy 700x38c

ペダル:Shimano PD-M9100 ノーマル軸

ワイヤ:SimWorks by Nissen

 

2022年でビルダー歴30年というJeremy Sycipに依頼して作ったグラベルロードフレームは,同じくJeremyに作ってもらったシクロクロスフレームとキャラクタが完全に違い,同じビルダーでもジオメトリの違いでこれほど乗り味が違うのかという驚きをもたらしてくれました。2016年にJeremyが来日した際にその人柄に触れ,「次のフレームもJeremyに依頼しよう」と決めてから6年が経過し,私の今の思いを詰め込んだ自転車が完成しました。

今回自転車を組む上での1番の問題点は全世界的なサプライチェーンの混乱で部品が入ってこない事で,使いたかったグラベルロード用コンポーネント"GRX"も揃う目処が立たない状況でした。しかしフレーム完成に狙いすましたように”GRX Limited”が調達でき,なんというか不思議なタイミングの良さがありました。

Photo by もんじゃ シルバーポリッシュのクランクがカッコイイ・・・

 

Photo by もんじゃ 真鍮のヘッドバッチがマットネイビーのフレームにピッタリでした。

 

と,自転車の紹介はここまでとして,今回の本題は「組んだ話」です。

今回フレームをオーダーすると同時に,フレームの下処理から始めるいわゆる「ゼロ組み」がやってみたかったことでした。ホイールは自分で組むようになりましたが,自転車そのものは本当の意味で組んだことはありません。「ゼロ組み」はやってみたがりの私の憧れの作業でした。

 

自転車に乗ることは好きでも,組み立ても好き,という人は限られていると思います。これ以降は組み立てが好きな人向け,というか自分の忘備録も兼ねた記録です。正直写真も文字数も多く,終盤は時間に追われて写真が撮れていない状況です。誰の役に立つかわからない,むしろ完全に俺得情報でしかない「フルオーダーフレームでグラベルロードを組んだ話」の始まりです。

 

 

作業は2022年7月16日(土)と7月17日(日)の丸二日を使って行いました。

場所は私にとっておなじみのレンタルピット「カルチャークラブ」です。

 

■7月16日(土)の作業

①フレーム下処理

作業開始前のフレームです。フレームカラーがイメージしていた通りで本当にうれしい。

いわゆる完成車と違って,ここからパーツを組み付ける前にフレームに下処理が必要になります。

(1)シートチューブ内研磨

電動ドリルに専用のヤスリを付けて,

 

シートポストクランプを外してからシートチューブに突っ込んでやすりがけします。トップチューブとシートステーの溶接が原因でシートポスト内側には細かいバリがあります。このままだとシートポストが傷だらけになるのでやすりがけです。まずヤスリを突っ込み,それからドリルを回転させ,グリグリと全周を研磨します。

 

(2)ヘッドチューブ下処理

1.面取り

ヘッドチューブとヘッドの当たり面は塗装が乗っており,平面が出ていない事とこのままヘッドを圧入すると塗装が割れてしまいます。そのため塗装を削り平面を出します。

 

まず普通の金属ヤスリでヘッドチューブ外側の角の塗装を削り,切削の下準備をします。最大限顔を近づけて慎重に削ります。

 

うっすら下地の金属が見えるくらい。C面取り0.1mmくらいの感覚です。これをヘッドチューブ上下とも実施します。失敗を考慮して目立たない下側から作業しました。

 

2.リーミング

「リーミング」は,加工済みの穴を拡げるような作業を指します。ヘッドチューブ内側は溶接が原因のバリがありますし,真円が出ているとは限りません。専用切削工具で削り,ヘッドパーツを圧入するのに適切な穴に整えます。慎重に真っ直ぐ工具を入れて削ります。

 

工具の刃に細かい切り粉があるのがわかるでしょうか。この作業もヘッドチューブ上下とも実施します。

 

3.フェイシング

こちらも専用切削工具を使います。刃に指定のオイルをしっかり塗って,

 

ヘッドチューブに直角に当てます。軸の中心がずれないように慎重に合わせました。時計回りにゆっくり均等に回して行きます。

 

刃の隙間から削いだ塗装がリボンのようにピロピロ出てきます。

 

削れました。うっすら塗装が残っていますが,指で撫でても出っ張りは感じなかったので,「まぁこんなもんやろ」でヨシとします。削りすぎてヘッドチューブ長が変わると困ります。

 

(3)BBシェル下処理

ヘッドチューブと同様にBBシェルもフェイシングをします。

 

1.タッピング

BBシェルにはすでにネジ山が切られていますが,溶接により歪みが大きくなる場所と聞いています。またネジ山に汚れが乗っていたりするので,写真のような専用のタッピングツールを使用してねじ山のクリーニングも兼ねてタッピングします。左右で回転方向が違うので,向きに注意です。クランク側が少し渋い気がしましたが,削りすぎは避けたい。「まぁこんなもんやろ」で諦めます。

 

2.フェイシング

BBシェルのネジ山で工具の位置決めをするタイプの切削工具です。工具の重みで切削面にムラが出ないようにフレームを横倒しにして作業します。

 

こちらもピロピロと削った塗装が出てきます。フレームを裏返して両側とも作業します。

 

②ヘッドパーツ圧入

ヘッドパーツは圧入式です。CHRIS KINGのヘッドパーツには刻印があるのですが,圧入する時の刻印の向きに流派があるようです。私は今回上ワンについては菱形のマークが前後に来るように組み付けることにしました。

 

圧入される面にグリスを塗り,専用工具で圧入します。軸がずれないように全方向から角度を確認して慎重に圧入します。

 

上下とも圧入できました。下ワンのロゴは5箇所あり,今回私はKINGとKINGの間が中心に来るように組み付けました。マットネイビーのフレームに艶ありネイビーのヘッドパーツが映えます。

 

③BB組み付け

BBはThreadFitなのでねじ込むだけです。CHRIS KINGのBBはシマノ 対応のBBツールで締めると滑って外れ,フレームやBBを傷つける可能性が高いので,専用のソケットを使います。

ここまでの作業はさらっと書いていますが,工具の下準備と作業の説明はカルチャークラブスタッフのカモちゃん(7月末には異動)にサポートいただきました。アマチュアカニックにとって強力なサポートを得られるカルチャークラブのレンタルピットは本当に助かります。自転車いじりがしたいが少し自信がない方には強く推奨いたします。丸1日ピットを借りて¥5,000。自宅に自転車を置く場所さえ確保できているなら,ピットの作業費は月極でガレージを借りるより安いはずです。

 

④チェーンステーカバー貼り

今回変速はフロントダブルで,インナーチェーンリングは31tの設定です。チェーンの暴れでチェーンステーにチェーンが当たる可能性が高いので,チェーンステーカバーを貼ります。しかし売っているものは妙にツヤツヤしていて,マットネイビーのフレームカラーに合う気がしない。結局自作しました。

参考になったのは強いシクロクロッサーとして名高いスクミズ氏のブログです。

skmzlog.com

トラックの幌を修理するためのパッチシール「ペタックス」の黒です。適度なシボがあり風合いがマットネイビーのフレームに合いそうです。幌に使う素材なので耐候性も期待できます。事務用のロータリーカッターで整形し,かどまるproで角を落としました。

貼れました。フレームの雰囲気を崩さず,目的を達成してくれました。長さは再考の余地ありですが,うまくいったと思います。上の写真にはタイヤが組み付いたホイールが写っていますが,タイヤの組みつけもこの時ついでに行いました。今回使用したタイヤ"SimWorks Volummy"はめちゃくちゃ着けやすかったです。リムとの相性も良かったのか,レバーも使わずあっという間でした。

 

■7月17日(日)の作業

コンポーネントの調達がこれほどうまくいくとは,というタイミングで"GRX Limited 2X"が届きました。7月15日にシマノから販売店向けに発送,7月16日にCirclesに到着,検品を済ませた後7月17日朝に私の手元に届きました。おそらくアマチュアカニックとして"GRX Limited 2X"を組付けたのは私が国内最速ではないでしょうか。

店頭に並ぶ前にコンポーネントを届けていただいたCirclesに感謝します。

箱のデザインは鈍い茶色。私が欲しいのは中身なので,箱とはすぐにサヨナラしました。

 

⑤ブレーキキャリパ組み付け

ブレーキキャリパには最初からホースが組み付いていました。ホースの先は封止されていて,オイル充填済でした。

 

今回のフレームは,リアブレーキラインはタイラップを使う必要がなく,ダウンチューブ内を通る設計になっています。リアエンド側からホースを通していきます。

 

ダウンチューブ内にはブレーキホースを導くリードのようなものがないため,作戦を考えました。土日はAM4:00から開いている上州屋に行って,安い道糸を買ってきました。何となく5号を選定。

 

作業途中の写真がありませんが,以下の手順で進めました。

1)ブレーキホース先端をビニールテープで保護

2)ちちわ結びした道糸をヘッドチューブ側の穴からダウンチューブ内一杯に押し込む

3)BB側の穴からブレーキホースを押し込み,ヘッドチューブに突き当たるまで押し込む

4)突き当りの手ごたえを感じたら道糸を引っ張り,ちちわ結びの輪の中にブレーキホースが通ったかの手ごたえを確認する。

5)通った手ごたえがあったら,道糸を引っ張りながら少しずつBB側のホースを引き抜く。

6)ホース先端のビニールテープが穴から見えたら,千枚通しなどでテープをひっかけ,穴の外にホースを導く。

箇条書きにすると6項目ですが,実際には作戦はハマり,3分かからずホースは通りました。もう一度試した時には少し手こずった感がありますが,それでも3分かからず。予想よりアッサリ完了し再現性もあり。これでブレーキホースの交換は不安がなくなりました。

 

 

STIレバー仮組み→ブレーキホース組み付け

ブレーキホースが通ったら,STIレバーへ接続です。あらかじめハンドルバーを組み付けておき,レバーのポジションをざっくり決めます。レバーに対してホースの長さを決めたらカットします。

 

カットしたホースのエンドにプラグを打ち込みます。このシマノの専用工具はこんな時にしか使わないので,カルチャークラブで借りれて助かりました。

 

STIレバー側のホース接続ボルトを8mmのオープンエンドで外します。オイルが入っているので下にウエスを引いてから外しました。

 

ホースの接続ボルトを外したら,ホースを通してそのあとホースのエンドプラグとセットになっているオリーブ(真鍮製の部品)を通します。このままレバーに突っ込んで奥まで当たってからボルトを締めると,オリーブがつぶれて密着し,レバーからオイルが漏れなくなる仕組みです。しかし今回この「ホースのエンドプラグとセットになっているオリーブ」に大いなる罠が潜んでいました。

 

上の写真の破片がなんだかわかるでしょうか。砕けた「オリーブ」です。なんと”GRX Limited”のレバーには最初からオリーブが入っており(しかも傾いていた),私は「ホースエンドプラグとオリーブはセット」という先入観から,レバーの中にオリーブを残したままオリーブ付きのホースを突っ込み,そのまま締めこんでしまったのです。

 

何を言っているのかわからねーと思うが,おれも何が起きたのかわからなかった・・・

頭がどうにかなりそうだった・・・

反対側のレバーのホース接続ボルトを開けた時に,何気なく奥を覗いたら傾いたオリーブが入っていることに気が付き,その場で倒れそうになりました。慌てて最初に締めたレバーのボルトを外すと,中に異様な形につぶれたオリーブが入っているのが見えました。「はい死んだ!今俺の限定版レバー死んだよ!」の叫びを必死に抑えてピッキングツールでつぶれたオリーブを半泣きで取り出しました。が,進みつつある老眼でピントが合わずうまく取り出せません。もう写真を撮る余裕なんかない。1時間半つぶれたオリーブと格闘しても取り出せず,気持ちが折れて膝から崩れ落ちそうになったところで,カルチャークラブスタッフのノブくんがラジオペンチ片手に立ち上がり,数分の作業の結果つぶれたオリーブを取り出してくれました。神。

カルチャークラブは基本自己責任作業ですが,今にも泣きそうな中年を見かねて助け舟を出してくれました。目のピントが合っていなかったせいでオリーブを取り出そうとする角度が悪かったそうです。本当に助かりました。

 

レバー側のねじ山をピッキングツールで結構傷つけてしまったので,ボルトに止水テープをこれでもかと巻いてホースをねじ込みました。何とかホースの接続を完了。本当に血の気が引きました。

⑦ブリーディング

キャリパが閉じるのを防止するブロックを突っ込み,ブレーキオイルのブリーディングです。GRXのキャリパにちょうどいいブロックがなかったので,斜め向きにブロックを入れてビニールテープで固定しました。

 

レバー側にオイルキャッチタンクを付けて,ブリーディング開始です。レバーをポンピング→キャリパ側のボルトを緩めてオイルを排出を繰り返してホース内のエアを抜いていきます。この作業もある意味キリがないので,「まぁこんなもんやろ」で諦めて終了します。


ここから先はカルチャークラブの予約時間終了が迫っていたので突貫作業となり,写真はありません。が,気づいたポイントは記録しておきたいと思います。

 

コンポーネント組付け

クランク→フロントディレイラー→リアディレイラー→リアホイールにスプロケット組付け→ホイールをフレームにセットしてチェーン組付け,の順で作業しました。ブレーキディスクは最後まで組み付けません。油の着いた手で触ると面倒だからです。

チェーンは事前に超音波洗浄器で洗い,変速調整の前にチェーンルブを塗布しました。

 

⑨ワイヤリングとペダル組付け,変速調整

シフトワイヤは高級品ですがニッセンを指定。しなやかなワイヤは一度使うとシマノに戻れません。フロントディレイラーの調整が少し難しいですが,粛々と進めます。変速調整に便利なので,ペダルもこの時組付けています。

 

⑩コラムカットとシートポストカット

オーダーフレームなので,フォークコラム長はある程度めどが立っていたのに後回しにした結果は少し面倒でした。ワイヤ類が固定済なので,ソーガイドを固定したバイスまで自転車ごと持っていく必要があり,オリーブ取り出しで私を救ってくれたノブくんにサポートいただきました。本当に感謝。

シートポストはメンテナンススタンドで固定に使うため,作業終盤まで傷つけてよいシートポストを借りて作業していました。本番用のシートポストは,シートチューブ内に120mmくらい入る長さでカットしました。

 

後から気が付いたのですが,ハンドルバーからレバーを外してしまえばフォークを抜いて落ち着いてコラムカットできました。この時は焦っていて気が付きませんでした。反省です。

 

⑪清掃,ブレーキパッド組付け,ブレーキディスク組付け,ブレーキキャリパ位置決め

ブリーディングの時にこぼしたブレーキオイル等を清掃して,手をしっかり洗ってからブレーキパッドを組付け,ホイールにブレーキディスクを組付け,ブレーキキャリパの位置決めをします。レバーを握りこんでピストンを押し出し,ディスクとのクリアランスを確認しながら位置決め,ボルトを本締めして完了です。正直油圧ブレーキは,片押しピストンのワイヤ引きディスクブレーキより位置決めがカンタンです。ブリーディングの手間だけですね。

 

⑫ヘッドがた取り,各部ボルト締め付け確認

ブレーキの位置決めが終わったら,各部ボルトの締め付け確認をします。今回締め忘れはありませんでした。

 

バーテープ巻き

バーテープを巻く前にハンドルやレバーの位置を確認して,バーテープを巻きます。毎度バーテープの最後を斜めにカットするのがうまくいかなかったのですが,今回巻ききった後にペンでカットするラインを引いてしまうときれいにカットできることに気が付きました。

 

完了はお店の閉店時間をオーバーしており,今回特例で延長してもらいました。

何から何まで本当に感謝です。

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何とか丸2日で完成しました・・・

 

■まとめ

今回フルオーダーのスチールフレームで自転車を組む,いわゆる「ゼロ組み」といわれる作業に挑みました。特にフェイシングや圧入のようなやり直しが効かない種類の作業は貴重な経験になりました。自転車屋さんでない限りはこの手の作業は人生で1・2回あればいいほうだと思います。貴重な経験ができて本当に楽しかった。

次にいつ来るかわからない「ゼロ組み」に備えて反省点を以下に記します。

・オリーブに気を付けろ

レバーの中には最初からオリーブは入っていない,という先入観がありました。限定版のコンポーネントだったからかもしれませんが,つぶれたオリーブを取り出す作業は二度と御免です。次から必ず目視確認します。

・コラムカットの時はレバーを外せ

自転車ごと持っていかなくても,レバーを外せばフォークは抜けます。焦り故ですね。

・小さいバットを何個か用意せよ

本文中には書きませんでしたが,何度かスモールパーツを床に落として探す時間がありました。自前で何個かバットを用意しておけば無駄な時間を使わずに済んだと思います。

 

いろいろありましたが,自分のためにオーダーしたフレームで自分のための自転車を組むのは,本当に自分の自転車をクリエイトした実感が持てて,自己肯定感爆上げであります。これから新しい自転車でどんな走りができるのか,生き延びる楽しみがまた一つ増えました。