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【書評】アンドロイドは電気羊の夢を見るか? 著:フィリップ・K・ディック

 書店のポップに「映画より面白い」と書いてあったので、読んでみることにしました。

 

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(ハヤカワ文庫 SF) Amazon.co.jp

 

本書は、SF映画のファンであればほとんどの人が見た事があるであろう、「ブレードランナー」の原作に当たります。有名なのでタイトルは知っているが、読んだことが無い方も多いのではないでしょうか。実は私もその口で、ディックの作品の中では何故か読んでいませんでした。ディックの作品では「ユービック」が特に好きです。

 

私が感じた本書のテーマは「生きる動機は?」です。主役デッカードの生きる動機は生きた動物。生きた動物が簡単に手に入らなくなった世界で、バウンティハンターという危険な仕事の賞金で稼げば、生きた動物を買うことができる。命懸けの戦いの最中にペットショップで高額のローンを組んでしまう姿は滑稽です。

 

彼は、ステータスシンボルのために生きている。必死で。はたから見ると滑稽なのですが、気持ちが分からなくはない所が面白い。心理描写にも頷かされる部分があり、SFの世界での人物像にリアリティがあります。ですが、本書では生物としての「人間」には心情描写があるのですが、「アンドロイド」には心情描写がありません。その行動は丁寧に描かれ、表情豊かな行動、台詞回しを見せるアンドロイドですが、彼らの内面の描写は読後の記憶の範囲では全然ありません。

本書の設定ではアンドロイドには感情が無い、正確には「感情移入の能力が無い」という事になっています。感情が無いから心情描写が無い、ということなのでしょうか。では犯罪を犯してまで生き延びようとする彼らの動機は?それもプログラムされた物なのか?感情が無いものに生きる動機はあるのか?という普遍のテーマが描かれていると思います。要はネタとしてはありふれているのです。

しかし、本書の刊行は1968年です。今から50年近く前にそのテーマでSFが描かれているのです。結局人類はサッパリ精神的に進化していないんですね。正直、唸る内容でした。

 

読み終わってみて、「ブレードランナー」の内容を全然覚えていない事に気付き、ディレクターカット版を見直してみました。

 

ブレードランナー クロニクル[Blue-ray] Amazon.co.jp

 

改めて見て、押井守の「攻殻機動隊」が引き継いでいるビジュアルは、「ブレードランナー」で完成されていたのを実感しました。つくづく完成度の高さに唸ります。

 

そして、劇中のビジュアルや、アンドロイドの感情の起伏の豊かさからすると、リドリー・スコットは原作をベースに全然別物の世界を描いています。でも、感じられるテーマは同じ。特にレプリカントのリーダーのバッティが見せる狂気と悲しみは未だに心打つものがあります。

未だに作品の解釈にアレコレ思い描く事ができる、書籍、映画とも本当に名作だと感じました。大満足です。