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技術系サラリーマンの生活実験

【自転車実験室】Power Tap(多分第1世代)を導入した話

シクロクロスで少しでも強くなろうと通い始めた56cycleのローラー教室。今は週1回のペースで通っています。ローラー教室はパワーメータを使って負荷を管理する方針で、通い続けた結果パワーメータの使い方が私にも理解できるようになってきました。そして、実際にトレーニングの効果を感じています。

使い方が理解できてくると、週末のトレーニングにもパワーメータを使いたくなるのですが、安くなったとは言え私の財布の中身からするとお高いもの。そんな時に勝手にライバル視している江上商店のライダー佐藤くんから格安で「Power Tap」の多分第1世代で組まれたホイールを譲ってもらいました。私のクロスバイクのドライブトレインは10速なので使えます。「お代は使ってみてからでok!」と言われ、「格安」なのですがまだお代を払っていません…

今回のエントリでは、ここ1年くらいで私が理解したパワーメータについてのアレコレと、パワーメータを利用したトレーニングについて論じたいと思います。

 

 

◼そもそも「パワー」とは?

日本語に訳すと「仕事率」になり、これは単位時間(秒)あたりにどれだけのエネルギーが使われているかを示すものです。「力」は「フォース」で、これは物などを動かそうとする原因にあたり、「フォース」によって「パワー」が生み出される関係です。自転車に置き換えると「パワー」は「自転車を進めようとするエネルギー」と言えるでしょう。パワーメータは、ライダーがどれだけ自転車を進めようとするエネルギーを出力しているかを図る計測機器です。

 注目すべきは「パワー」の重要な変数として「時間」がある事です。巨大な「フォース」もある程度の時間をかけ続けないと有効な「パワー」にならない、という事です。瞬間的にペダルに力を込めても自転車はほとんど進まず、クランクを回し続けないと進まない、というイメージに直結します。

 

私の理解しているサイクリストに対するパワーと速さの関係をまとめるとこんな感じです。     

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大雑把過ぎる気がしますがこんなもんではないでしょうか。

レースでは赤枠の状態がベスト、トレーニングではパワーも速さも上がる左上セルがベストでしょうか。

この通りに考えると、最近パワーが上がってきた私も結局体重が落ちないとトータルでは速くならないわけですが、大食漢で小デブの私に取っては体重を落とすのが1番の難題。食べる量を調節できる人は、どうやって猛烈な空腹感に耐えているのでしょうか?

 

◼どうやってパワーを計っているのか?

「歪みゲージ」と呼ばれるものを使って、「Power Tap」の場合はハブ軸の歪み、パイオニアなどのクランク型はクランクアームの歪みを測定して、そこからクランクの弾性係数と掛け合わせてパワーに換算しています。

「歪みゲージ」は歪みを検出すると極わずかに電気抵抗が変化する「抵抗器」です。この抵抗の変化をブリッジ回路で検出して、それを歪みの値に変換しています。この辺りは計測機器大手のKEYENCEのサイトに詳しいです。

 

www.keyence.co.jp

 

「歪みゲージ」の変形耐久性は、高耐久性の物の仕様書を見ると100万回くらいあります。仮に「Power Tap」に耐久性100万回の「歪みゲージ」採用され、タイヤ1回転毎に「歪みゲージ」が変形したと仮定すると、700×23cのタイヤ(周長2096mm)で、走行可能距離は単純計算で

 

2096(mm) × 10^6(回転) × 10^-6(km換算)= 2096km

 

となるはずで、短すぎて使い物にならない計算です。でもこれは想定している最大負荷がかかった時。NAS規格によると「歪みゲージ」の耐久性を定義する時の負荷は±1500με。170mmのクランクアームが0.255mm伸びるか縮むかする負荷です。人力の実用領域ではこんな負荷は起きないと思われるので、実際の走行可能距離はこんなに短くないはず。流石に2万km位は大丈夫やろ。実際はどのくらいの走行距離を想定して設計しているのでしょうか?

 

佐藤くんは「数100kmしか走ってない」と言っていたので、屋内保管だったようですし、恐らくですがまだ十分使えそうです。

実際には、「歪みゲージ」本体よりも「歪みゲージ」を対象に貼り付けている接着剤の劣化の方が問題です。よく使われているのはシアノアクリレート系接着剤(アロ◯アル◯◯みたいなもの)で、シアノアクリレート系は実は衝撃に意外と弱いのです。そのため耐衝撃性の添加剤を入れた接着剤を使うのですが、限界があります。過大な衝撃を与えすぎると早めに接着剤側が壊れてしまう可能性があります。早めに壊れたらペダリングがガチャ踏みの可能性があるという事ですかね…

歪みゲージの貼り付けはメチャ気を使うので、パイオニアにクランクを預ける場合1〜2週間の納期は納得です。

 

◼パワーメータはハブ型とクランク型のどちらがいいのか

今主流のパワーメータはパイオニア製に代表(本来ならばSRMか)される「クランク型」でしょう。自分なりに特徴をまとめると、

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という感じです。

自転車が複数台ある場合は、いいリムでホイールを「Power Tap」で組んだら、1番費用対効果が高いと思います。ただ、ロードとシクロクロスのように競技をまたぐ場合はタイヤ交換が面倒になります。逆に自転車が1台で、ホイールの効果を評価したいなら迷わずクランク型でしょう。私としては憧れの「ChrisKing」のハブでホイールを組みたいので、将来的にはクランク型が欲しいです。

クランク型には両足タイプと片足タイプがありますが、パワーを計るだけなら片足タイプで良いと考えています。目的は「前より強くなったか?」を計るためなので。その点ではハブでパワーを測定する「Power Tap」も目的に合致しています。他の人とパワーの絶対値を比較しても、人によって体型や体重が違うので意味がありません。プロ等限界走行中のさらなる効率を追求しないといけないレベルの人なら、迷わずクランク型両足タイプを選ぶでしょう。

個人的に注目しているのはStages PowerのFC-5800(105)の左側タイプ第3世代

第2世代はパワーの取りこぼしなどで評判が悪かったようなのですが、次の世代での改善を期待したいことと、1番大事なのは「色」が選べることです。私は今の自転車には黒ではなくシルバー系のクランクを使いたくて、リーズナブルな値段でそれを満足できるのは現状「Stages Power」しかないのです。パイオニア等、生産数の問題とか色々あるのはわかっているのですが、黒っぽいクランクしか選べないのはちょっとツラい。パーツを黒系でまとめてあるならいいのですが、今の自転車はそうではないので。

私の理想は「White Industries」のクランク(シルバー)に目立たないパワーメータが付いたら完璧です。流石に需要がなさ過ぎて出ないと思いますが。

 

◼「Power Tap(多分第1世代)」の現物を確認

持っていなかった計測機器を触れるのは大変気分がいいものです。汚れを落として点検です。

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リムはDT SWISSのR450の32h、ドライブ側、反ドライブ側共に4本組で組まれていました。ニップル穴は「Veloplugs」で塞いであります。「Veloplugs」は使ったことがないのですが、これを見て使ってみたくなりました。

気持ちリムがドライブ側に寄っていたので修正しましたが、振れは私の感覚ではほぼ無しでした。お見事。同好の志の技は刺激になります。私も修行を積まないと。

 

反ドライブ側のキャップを回し外すと、電池ホルダがあります。

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つまんで取り出します。はんだ付けが少し下手なのが気になります。使用されている電池はSR44が2個。SR44はコンビニとかで売っているLR44と外形が同じですが、中身が違います。

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ざっくり言うとSR44の方がLR44より長い時間安定した電力を供給できます。練習中に電池が切れたら気分がさがるので、少しお高いですがSR44を選ぶべきだと思います。個人的にはとある理由で、ボタン電池Panasonicや三菱よりもmaxellを信頼しています。

 電池ホルダの反対側には、ANT+のロゴが入った透明の樹脂ケースが見えます。

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中身をよく見ると、どうやらANT規格の2.4GHz帯でよく使われている「板状逆F型アンテナ」のようです。重たそうな金属性のハブシェル、アンテナは反ドライブ側の樹脂ケースに出していることから、「歪みゲージ」に対するEMI対策(機器が妨害電波を受けた時の誤動作対策の事)とアンテナの送受信を両立させたかった設計思想のように感じます。「歪みゲージ」は微弱な抵抗値の変化を検出するので、電磁波によるノイズの影響を受けやすく、無線通信で使う場合は金属でシールドする等の対策が必要です。

シクロクロスアイドルのコッシーのブログでも「Stages Power」にアルミテープを貼ると感度が改善した、というエントリがありますが、恐らく歪みゲージ側へのEMI対策になったのだと思います。

vh-lg.com

 

Garminと接続、校正

電池を収めてOリングに防水のおまじないとして薄くグリスを塗りキャップを閉めました。私が持っているサイクルコンピュータは少し時代遅れのGarmin Edge510J。電池の持ちが良く、買ってから4年以上経ちましたがまだ現役です。メニューからパワーメータを検索するとあっさりつながりました。

接続できたら校正です。

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画面の「校正」を押すと、以下のようなメッセージがでます。

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振れ取り台に乗せているので無負荷状態です。このまま「校正」を押すと、

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校正完了です。トルクが「0.00」を表示して変動しません。問題なさそうです。

「校正」は、いわば「ゼロリセット」です。経年劣化でセンサの値がゼロからズレてくる(オフセット)することはよくある話で、定期的な校正が必要です。ですが、校正したからといって測定値が「真の値」を出しているかは実際不明です。でも私としては致し方なし、と考えています。

Power Tap」に掛かる負荷と、その結果を検出するには校正専用の試験装置を用意する必要があるので、メーカくらいでしか対応できません。でも、「真の値」とのオフセットを飲み込んでも、測定した結果を基準にしてそこから自分のパワーがどのように変化していったかの絶対評価は可能だと考えています。「歪みゲージ」の値はフックの法則が適用できる弾性域で使用するもので、その歪と応力の関係は比例関係にあります。

多少値がオフセットしても、その値の伸び率については比例関係と見てよいのでは無いでしょうか。

 

◼実走行してみた

翌日の日曜日に、久しぶりに瀬戸の難所「三国山表側」に挑みました。

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走行中にトレーニングの指標となるのが「ラップパワー」です。これはラップを切った期間のパワーの平均値を表示し続けてくれる機能です。自分で「ラップパワー」の目標値を決め、それを下回らないようにペダリングします。足を止めると「ラップパワー」は下がっていき、下げないように頑張ろうとすると全く気が抜けません。1人で走るときは苦しさに負けてペースが落ちやすいものですが、数字で「頑張れてない」事を示されるので気が抜けないのです。ラップパワーの詳しい利用方法は、関連書籍を買うか56Cycleに行って下さい。

果たして結果はタイムが31:21の自己ベスト更新。この間の「ラップパワー」は286Wでした。31:21の間、平均して286Wのパワーが出せた、ということになります。昨年末に20分間の「ラップパワー」で284Wを記録しているのですが、それより向上しています。タイムについては2分以上の更新で、確実に自分が強くなったことがわかり気分が上がりました。ただ、全開走行で太ももの筋肉がズタズタになった感はハンパなかったです。

「ラップパワー」と合わせて、「パワー」も表示させておきましたが、確認している範囲では表示が「0W」になることはなく、問題なく使えているようでした。早く佐藤くんにお代を払わないと・・・

 

◼ローラー教室で使ってみた

自分のパワーの変化を確かめるためには、同じ測定機器を使うべきなので、56cycleにも持ち込みました。ミノウラの固定ローラーで使うためクイックレバーはミノウラのトレーナー用にしてあります。Amazonで¥500しませんでした。

結果、2セット目までは問題なくパワーを測定できたのですが、3セット目の20分間の間で10秒近くパワーが測定できない事が3回発生しました。パワーの表示が「0W」ではなく、全く表示されなくなったので、Garminとの接続が切れたと思われます。帰宅時も問題なく測定できたので、3セット目だけ電波状況が悪くなったのでしょうか?今後も使ってみて再現性を確認してみます。

サイクルコンピュータ周辺機器の接続でメジャーなANT規格は2.4GHz帯の電波を利用していますが、現代では2.4GHz帯を利用している無線局がメチャ増えていて、TDD(時分割複信)方式を採用しているANT規格にとっては、混信しやすいという点で屋内使用は不利です。今や懐かしのPHSでは、事業者を超えて時間の同期をするなど工夫していたそうですが、サイクルコンピュータ界隈では無理でしょう。私の考えでは、サイクルコンピュータのような2.4GHz帯を使う微弱無線局は、利用者が増えまくった今、FDD(周波数分割複信)方式のBluetoothに切り替わっていくのが理想と思われます。私が気になっている「Stages Power」はBluetooth対応なのでますます気になります。このあたりの通信方式について興味の有る方は、私に直接聞いていただけたらと思います。延々話し続けて鬱陶しくなることをお約束します。

 

◼まとめ

・パワーメータの目的は「前より強くなったか?」を計ること。

・理想はクランク型だが、「Power Tap」も十分役に立つ。

・理想の通信規格はBluetooth

 

今回はパワーメータのお話でしたが、パワーが高いだけではシクロクロスでは勝てません。今の自分のカテゴリC3の自分の立ち位置を図示すると、

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という領域でしょうか。パワーは付いてきましたが、それを活かすテクニックが無いと宝の持ち腐れになります。テクニックについては課題をもらっているので、テクニックも合わせて練習していきたいです。ただ、テクニックを活かすために必要なパワーもあるはずで、どちらも練習が必要だと思います。

パワーメータという計測機器が増えて、ますます環境が整ってきた私。これから2018-2019シーズンの開幕まで約半年。できる範囲で強くなりたいと思います。

長期的な目線を持てばマスターズ65+の全日本選手権まで20年以上時間がありますから。できる範囲でたっぷり楽しみたいと思います。